「なぜ事故が」…帝王切開死、専門的議論に遺族置き去り

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「なぜ事故が」…帝王切開死、専門的議論に遺族置き去り
8月20日13時4分配信 読売新聞


 産科医不足を加速させたとして医療界が注目した「大野病院事件」に、無罪の司法判断が下った。

 帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)に対する20日の福島地裁判決。

 加藤医師は落ち着いた表情で判決を聞き、傍聴席の最前列に座った遺族は顔をこわばらせ、無念さをにじませた。

 加藤医師は、白のワイシャツにグレーのスーツ姿で一礼して入廷し、直立不動で言い渡しを待った。

 「被告人を無罪とする」。主文が読み上げられた瞬間は、冷静な表情のまま、わずかに頭を下げた。

 判決理由の中で、帝王切開手術を再現し、経緯を検証する部分では、うっすらと浮かんだ涙をハンカチでふいた。弁護士に声をかけられると、うなずいて「問題ない」という合図を送り、冷静な表情に戻った。

 一方、亡くなった女性の父親、渡辺好男さん(58)は、最前列で傍聴した。主文読み上げの瞬間、驚いたような表情で鈴木信行裁判長を見上げた後、厳しい視線を加藤医師に投げかけた。

 渡辺さんは判決前、「なぜ事故が起きたのか、なぜ防げなかったのか。公判でも結局、何が真実かはわからないままだ」と話した。

 あの日、妻(55)から「生まれたよ」と連絡を受けて病院に向かった。ハンドルを握りながら、娘に「もうすぐクリスマスとお正月。二重三重の幸せだな」と声をかけようと考えていた。

 病院に着くと悲報を聞かされた。1か月前、左足を縫うけがをした渡辺さんを、「体は大事にしなよ」と気遣ってくれた娘だった。

 帝王切開で生まれた女の子と対面した娘は、「ちっちゃい手だね」とつぶやいたという。これが最期の言葉になった。娘の長男が「お母さん起きて。サンタさんが来ないよ」と泣き叫んだ姿が脳裏から離れない。

 「警察に動いてほしかった」と思っていた時、加藤医師が逮捕された。

 「何が起きたのかを知りたい」という思いで、2007年1月から08年5月まで14回の公判を欠かさず傍聴した。証人として法廷にも立ち、「とにかく真実を知りたい」と訴えた。「大野病院でなければ、亡くさずにすんだ命」と思える。公判は医療を巡る専門的な議論が中心で、遺族が置き去りにされたような思いがある。

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